5月1日、大阪維新の会大阪市会議員団が「わが国の伝統的子育てによって発達障害は予防、防止できる」などとした「家庭教育支援条例案」を5月議会にかけると発表したが、各方面から抗議や批判が殺到、7日には、発達障害の当事者団体などからの抗議を受け、白紙撤回した。一連の流れを受け、8日、大阪の不登校・居場所関連団体は「大阪市家庭教育支援条例案と条例・法律による『親学』推進に関する緊急アピール」を発表した。

 大阪市の「家庭教育支援条例案」は、愛着形成の不足が発達障害の要因であり、それが「虐待、非行、不登校、ひきこもりなどに深く関与」、根本問題は「親心の喪失と親の保護能力の衰退」であり、「わが国の伝統的子育てによって発達障害は予防、防止できる」としていた。
 辻淳子市議(維新の会)によると、条例案は埼玉県のもので、高橋史朗明星大学教授(親学推進協会理事長)から資料提供を受けたという。親学推進協会には、「長田塾」の長田百合子氏も特別顧問として関わっている。
 条例案の白紙撤回を受け、高橋史朗教授は緊急声明を発表。条例案の白紙撤回について「混乱を招いた一部不適切な条例案のために家庭教育支援条例の全体を葬り去ることは将来に禍根を残す」との見解を示した。
 高橋史朗教授は、今年4月10日に「親学推進議員連盟設立総会」(会長・安倍晋三元総理)に出席し提言も行なっている。議員連盟は超党派で81名が参加、「年内に親学推進法律の制定、政府に推進本部の設置、地方自治体での条例制定、国民運動の推進」することを活動方針としている。議員連盟には、民主党からは、鳩山由紀夫元総理、鈴木寛議員(議連幹事長)自民党からは、下村博文議員(議連事務局長)、義家弘介議員らが名を連ねた。
 一方、すでに動き出している自治体もある。高橋史朗教授が教育委員長を務めていた埼玉県をはじめ、三重県、沖縄県、宇都宮市、名古屋市などでも親学推進の取り組みがすすめられている。埼玉県議会では2010年に船橋一浩議員(刷新の会)が、発達障害は「昔ながらの子育てによって予防できるとの研究がある」と発言していた。
 これらの動きに対し、大阪の不登校・居場所関係団体は緊急アピールを発表。緊急アピールでは「問題は発達障害への無知にとどまるものではない。不登校、ひきこもり、虐待、非行など、子どもに関わる問題を十把一絡げに列挙し、その原因を『親心の喪失と親の保護能力の衰退』に求め、親への強制を伴う教育を謳っていたのだ。これは暴論と言わざるを得ない」と強く条例案を批判。この条例案が大阪市単独のものではなく、国会での立法化の動きがあること、各自治体での「親学」推進への取り組みが進んでいることへの懸念が示されている。

精神科医・高岡健さんのコメント
 大阪維新の会が提案しようとしていた家庭教育支援条例案は「愛着形成の不足」が軽度発達障害などを誘発する大きな要因であり、それは「伝統的な子育て」によって予防、防止できるものだと位置づけた。
 愛着は子どもにとっての「安全基地」のなかで形成される。多くの場合、親が子どもにとっての「安全基地」となるが、どのような親や環境のもとであれ、子どもが「安全基地」を獲得できることが社会の責務と言えるだろう。
 この安全基地を「伝統的な子育て」によって形成しようとしているのだが、「伝統的な子育て」というのは、世界中、どこの歴史を紐解いても存在しない。
 このような理屈で「愛着形成」を促そうとするならば、親・子双方の「安全基地」が脅かされかねない。



さらに。
MSN産経ニュースから

http://sankei.jp.msn.com/life/news/120518/edc12051807500000-n1.htm

 今月上旬、大阪維新の会大阪市議団が成立を目指した「家庭教育支援条例案」の原案に「乳幼児期の愛着形成の不足が軽度発達障害などの要因」といった内容が盛り込まれ、抗議が殺到、白紙撤回された。発達障害は先天性の認知機能障害ということが、1970年代頃から医学的に定説となっている。しかし、今も発達障害の子供たちを育てる親たちは心ない言葉や偏見に苦しんでいる。現場を取材した。(横山由紀子、佐々木詩)

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情報交換や相談

 

 「感情表現がうまくできない子供が夜中に大声で泣いたら、虐待を疑われて通報された」「子育ての相談窓口の人でさえ、正しい知識を持っていないことがあるよね」

 発達障害児を持つ親の会「チャイルズ」(大阪市港区)。条例案のニュースを聞いた親たちが、口々に悩みを語った。

 チャイルズには現在、大阪市内に住む約80人が在籍。定期的に勉強会や相談会を開きながら、情報交換したり、互いの悩みを相談したりしている。

 「私たちは勉強会などを通して知識もある。仲間もいる。でも今、子供が発達障害と診断され、動揺しているお母さんが『発達障害は親の愛情不足が原因』といった言葉を聞いて、どれほどショックを受けたか心配です」と、代表の是沢ゆかりさん(45)。是沢さんは次男(14)が重度の発達障害だが、「小さい頃、だっこしようとしても嫌がってかみついた。その様子を見た人に『もっと愛情を注いであげて』と言われ、まだ私の愛情は足りないのかと自分を責めた」と振り返る。

 「母親は自分を責めてしまい、子供の障害を周囲に打ち明けられずに孤立してしまう。そんなことになれば、虐待にもつながり、悪循環を生むことにつながりかねない」

 

傷つく家族

 

 発達障害とは、自閉症やアスペルガー症候群などの広汎性発達障害、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)といった総称。乳幼児期から学童期にかけて症状が明らかになる。自閉症の場合、視線が合わなかったり他者とのコミュニケーションにおいて困難をきたしたりすることなどから、周囲が気づくことが多い。

 発達障害に詳しい神戸大学大学院保健学研究科の高田哲教授(小児神経学)は「50年ほど前には、発達障害を親の育て方と関連付ける考えもあった。しかし、70年代頃から先天性の認知機能障害であると定義されている。現在では、脳の器質的・機能的な障害であることは医学的にもはっきりしている」と話す。その原因についてはまだ解明されていない部分も多いという。

 ただ、原因が目に見えないため、親は自分の育て方や子供への接し方に問題があったと自分を責めてしまう。そのため、高田教授は発達障害の診断を親に告げる際、脳の機能障害によるものだと伝えている。「育て方が原因ではないのを知ってほっとした」という親も少なくないという。

 高田教授は「誤ったメッセージに家族は深く傷つく。早期からの適切な療育や支援で障害から来る生きにくさを軽減し、成長や発達を促すことはできる。発達障害をきちんと理解して社会で温かく見守ってほしい」と訴える。

 子育て支援に詳しい恵泉女学園大の大日向雅美教授(発達心理学)は「発達障害の問題に限らず、子育てをめぐる問題を全て親の責任としてしまう風潮がある」と指摘。そのうえで、「親だけに『がんばれ』と言って追いつめないで。親が安心して子育てできるように社会全体でサポートしてほしい」と話している。



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